虹をさがすオオカミ・本文サンプル
本文サンプル(一部抜粋です)


「どうしたの、急に」

大阪に単身赴任していた御剣がいきなり成歩堂の家にやってきた。
携帯に連絡が入ったので電話に出たら、
『今、駅についた』といわれたので、成歩堂は驚いたのなんの。
よくよく聞けば夕べの高速バスで早朝に東京に着き、そのままここまで移動してきたらしい。
「なんでまた急に」

手渡されたバックにはスーツ用のケースが入っていて、葬式かな、と成歩堂は思った。

「君は今晩、暇か?」

御剣はネクタイを引き抜きながらそう言った。

「え? 暇っていうか…仕事あるし」
「そういえば、そうだったな。みぬきくんも舞台があるのだろうな」
「そうだけど…なんかあるの?」
「うむ。あるパーティに呼ばれたのだが…
 せっかくだから、君とみぬきくんも一緒にどうか、と思ったわけだ」
「……ふうん…確かにパーティに出れば、一回分のご飯が賄えるね」
「そうだ。みぬきくんにも、そういう場を経験させたほうが、
 後々役にたつのではないのかね?」
「そうだねぇ…それにあの子、最近成長期に入ったのか、
 やたらとたくさんご飯を食べるんで、ホントはちょっと困ってたんだ」

そんなことをいう成歩堂に、御剣は心底しかたないという顔で頭を左右に振った。

「子供に満足に食事を与えられないなどとは、親として不足に過ぎる」
「みぬきの食欲を侮っているからそんなことをいえるんだよ。
 この前なんか食べ放題の店に連れて行ったら、
 一人でジャーのご飯、半分以上食べちゃって、大変だったんだぞ」
「…そんなに食べるのか?」
「フルーツの皿に山に盛られていたライチ、
 食べた数を二百個まで数えていたけど、全然止める気配がないんだよねぇ。
 なんだか怖くなっちゃって、途中で止めさせたんだよ」
「それは、なんというか、…すごいな」

そんなことをいいながら、御剣はトレードマークの臙脂のスーツの上着を脱いだ。
成歩堂はハンガーを探す御剣の手を握る。

なんだ、と不審そうに視線を上げる御剣の、
反対の手にある上着を取って、成歩堂はそれをハンガーにかけた。
それくらい自分でしようと御剣はいつも思うのだが、
成歩堂は御剣がやってくると、
それこそ箸やスプーン以外のものを持たせない勢いで
熱心に世話を焼きたがるのだ。

「パーティって、いつから?」
「午後の六時から…だろうか。
 うム……時間はまだ大分あるようだな。着替えるのは後にするか」

ふうとため息をつく御剣の、握った手をそのまま成歩堂は撫で始めた。
御剣はそれを引き剥がそうとはせずに、成歩堂の勝手にさせている。

「立食パーティだから、今日は何もしないぞ」
「…なにそれ」
「挿入を伴う性行為を求めているなら、私に応じることは出来ないということだ」

御剣はそんなことをさらっと言い放った。

御剣は、前はそういうことを口にするのを、
普通以上に恥らって嫌がっていたものだったが、
ここ数年は密かな閨の秘め事すら、なんでもないことのように口にするようになってきた。
無闇に恥らったり、照れたりすればするほど、
成歩堂が嬉しがって増長することを、学んだせいかもしれないが。

「…はっきり言うねぇ」
「そうでもしないと、キミはなにをするか、わからん」

確かに、久しぶりの逢瀬が、こんなにせわしないなんていかにも勿体ないことだ。
めったに会えないからこそ、
少しはそういうことを考えていないわけがない…ではないか。
成歩堂はてっきり御剣も少しなら…と
思ってくれていたのではないのか、と考えていたのだが。
そんなつれないことを言いながらも、
御剣がわざわざこの部屋に来る必要など、
本当は微塵もないこともわかっている。
パーティに出るだけなら、都内でホテルに泊まって、
そこで着替えれば、じゅうぶん間に合うし、事は足りるのだ。

「それは残念だなぁ。
 ――じゃ、代わりにマッサージでもしよっか? 
 今、触ってわかったけど、御剣の手、すごく硬くなってるし」

そういいながら成歩堂は握っていた手を離した。
成歩堂がみぬきと暮らしているのは小さい平屋の一戸建てで、部屋は二つしかない。
コタツの出してある部屋をさっと片付けて、
そこに座布団を二つ並べて敷くと、成歩堂は御剣に横になるように促した。

御剣はそこに素直に横になり、
背を少し押されただけでバキバキ音が鳴るのに苦笑した。












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