先生が教えてくれないこと・本文サンプル
本文サンプル(一部抜粋です)
「いい景色でしょ」

情事の現場はいつも高層階なのは、おそらくこの男の趣味なのだ。

高い場所というのは昔から権力者が好むものだという。
そうだとするならば、ここは男の好みそのものなのだ。
ましてや、今この部屋に囚われているのは、
過去に縛られている哀れな虜囚だ。
平静を装っているが、真っ青になった横顔は、
貧血を起こす寸前の面持ちだったはずだ。

巌徒局長は同伴した御剣をさりげなくエスコートして、
自分が取ったこの部屋に連れてきた。
ダブルのベッドが備え付けられていても、
部屋の狭さをまったく感じないホテルの一室は、
ちょうど角になっているせいか、部屋の二面が窓だった。

カーテンは上品なベージュ、それが半分ほど引かれている窓の下には
光り輝くビルの明かり。
洪水のように溢れる光は、まだ夜が浅いことを知らしめている。

この部屋にたどり着くまでに、
すでに二人は軽くアルコールを口にしていた。
ホテルの最上階のバーカウンターで開けたカクテルは、
階下の明かりを映してキラキラと輝いていたはずだった。
最高のサービスとは言わないが、
ホテルのバーとして最低限のレベルはクリアしている。
最近はどこもバーテンのレベルが下がったことだと思いながら、
巌徒は御剣の肩に手を置いた。

そのまま、部屋へ向かう個室へ入る――
エレベーターが苦手な御剣は、
バーに向かう途中ですでに顔色が悪くなっていた。
青くなる横顔に手を伸ばせば、びくりと震えて目を伏せる。

冷たくなった手を握って、そっと肩に身を寄せれば、
驚くほど素直に従ってくるのには、さすがに巌徒も驚いた。
吐き出された息が熱いのはわかっているが、
今日の御剣はどこか人寂しい風情が強くて、隙が多い。











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